お箸のおおした代表 大下 政幸
お箸を専門に扱う、お箸のおおした。江戸時代から続く伝統工芸品・若狭塗箸をはじめ、普段使いからギフトまで、用途も彩りもさまざまなお箸が揃っています。また、何気なく使われているものだからこそ、「より多くの人にその魅力と奥深さを知ってもらいたい」と、箸作りの一端に触れられる体験コーナーも併設。若狭塗箸の職人出身で、お箸を知り尽くす社長の大下 政幸さんにお話を伺いました。
ここでしか味わえないもの、体験できないことがある
嵐山昇龍苑の魅力は、個性の異なる老舗・名店が集まっていて、それぞれに専門店らしい質の高い品々が揃っていること。嵐山に行けば、昇龍苑がある。ここに来ないと味わえないもの、体験できないことがあると感じていただける場所だと思います。そのなかで、当店はお箸ひと筋。専門店としてのこだわりを大切に、国内外からお客様が訪れる嵐山で、より多くの人に塗箸の魅力を体験していただける場をつくりたいという思いでオープンしました。
若狭塗箸の職人から独立、新天地・京都へ
私は、塗箸の全国シェアNo.1を誇る福井県若狭地方の出身で、もともとは若狭塗箸の職人。江戸時代から始まったとされる若狭塗箸の伝統と技術を引き継ぐ地域で、職人や工房はとても身近な存在でした。最初は、工房を営む先輩のもとで、気軽な気持ちで挑戦した箸作りでしたが、知れば知るほど若狭塗箸の魅了されてしまって。サラリーマンを辞めて職人になることを決意しました。その後、職人としての知識を生かし、自分で厳選した商品を販売することで、もっと多くの人に若狭塗箸の魅力を知ってもらいたいと考えるようになったんです。
そうして、初めての店舗を構えたのが京都の山科。京都では、昔からの取引先様やお客様を大切にする文化が根付いていますから、当初は、他県からやってきて商売を始める厳しさを痛感しました。ただ、一度結んだ絆は強い。職人として、良いものを扱っているという自信はありましたから、地道な提案を重ねながら京都に地盤を築き、今に至ります。
10以上の工程を経て浮かび上がる、伝統のきらめき
よくお客様から「装飾が取れることはありませんか?」と質問されるのですが、若狭塗箸の特徴である貝殻などの装飾は、後から接着しているわけではありません。まず、箸となる木材を整えてから漆を塗り、その上に貝殻や卵の殻などを丁寧に付けた後、何層にも漆を重ね塗っては乾かすという工程を繰り返します。その後、貝殻などの凹凸が表面に出るように研ぎ出し、その際についたキズやザラつきを埋めるためにさらに漆を塗り、また磨く。その工程は10段階以上に及びます。なめらかになるまで磨き上げられて初めて、若狭地方の海を思わせる美しい模様が浮かび上がるのです。
当店ではお箸づくり体験を実施していて、模様を研ぎ出す作業を通して、職人技のすごみを実感していただくことができます。こうしてできたお箸は、より愛着をもって大切に使っていただけるのではないでしょうか。
たかがお箸、なれどお箸
修学旅行で来られた学生さんでも手に取りやすい価格のものから、伝統的な技法で作られた最高級の若狭塗箸まで、幅広く取り揃えています。お客様の声をもとに、職人とコミュニケーションをとりながら形やデザインを考えることもあるので、独自の商品も少なくありません。最近は、箸先から全体にかけて細身で、現代の食卓に合うシンプルなデザインのお箸が人気。また、竹の風合いが美しい竹箸もおすすめです。大分県産の竹を使用することが多いなか、嵐山を代表する景勝地である竹林にちなみ、珍しい京都産の竹箸もご好評いただいています。
「たかがお箸」と思われるかもしれませんが、毎日使うものだからこそ、本当に手になじむものに出会っていただきたいですね。長さや重さ、デザインの違いはもちろん、形状も感触も少しずつ異なるもの。ぜひ、実際にご来店いただき、ご自身にぴったりのお箸を選んでみてください。
上から順に「浮絵格子」、「浮絵ひさご」、極細箸「うるし昇龍」夫婦セット
どれも税込4,510円
極細箸「うるし昇龍」は先細で、先角になっている。よく見かけるお箸は先が丸いが、この先角になっているお箸は、魚など細かいものを滑らずにつかめるため、使いやすいのが特徴。
竹林から落柿舎へと続く道を散歩すること。故郷ののどかな風景を思い出して、懐かしい気持ちになります。